便利家電が増えているのに女性の家事労働が減らない!歴史からその謎に迫る
生活家電の進歩は目覚ましいものがあります。近年では全自動お掃除ロボットも登場し、ついに勝手に(しかもセットしていれば留守中に)お家のお掃除をしてくれるようになりました。食洗機や洗濯機もタイマー付きでずいぶんと便利になっています。
しかし、女性の口から「楽になった!」という実感の声は聞こえてきません。それはなぜなのか?
歴史を振り返って家事労働時間が短縮されない理由と現在の「女が家事を担う(男が外に出て働く)」スタイルが確立した背景を探って行きます。
社会史を通して家事労働について考えてみる
1985年、アメリカで出版された「More Work For Mother(日本題「お母さんは忙しくなるばかり」2010年出版」という書籍では、アメリカ開拓時代までさかのぼり、産業やテクノロジーの発展で家事労働やアメリカの家庭がどのように変化していったかを明らかにしています。ここで、かいつまんでご紹介していきます。
アメリカ開拓時代の家事
19世紀半ばに始まったアメリカ開拓時代にアメリカへ移住した開拓者たちにとって家事労働は過酷なものでした。
食生活では、動物の捕獲、作物の収穫、麦の脱穀、水を川殻運搬、火をおこす、調理すると生産までが含まれます。この労働のうち調理は女性が担当、残りは男性が女性の力を借りて行っていました。
当然、簡単な道具しかありませんし、これらの労働に使う道具のメンテナンスも家族で行わねばなりませんでした。食事は決して豊かなものではなく、簡単な麦のパンや手に入った食材で食べていくしかありませんでした。
産業化とインフラ整備
ちょうど第二次産業革命が進み始めるとアメリカでも工業化が急激に進みます。水道、ガスが各家庭に普及し始めます。同時に産業化も進み、小麦は製粉業まで確立しました。
先ほどの食文化でいうと、水くみや農耕の部分が家庭内で行う必要がなくなったのです。つまり、男性は家事労働から解放され、その代わり対価の支払いが必要になるため社会に出て働き始めまました。
消費がもたらした快適
調理もガスや水道が普及すれば楽になるはずですが、そうはなりませんでした。自宅で製粉した小麦粉では、発酵時間の短い調理器具で簡単なパンしか作れませんでしたが、それを皆食べていたためあまり不満もありません。
しかし、販売されているキレイに製粉された小麦をつかえばきちんと発酵させた柔らかくおいしいパンが作れます。そのため、こねる手間、発酵の手間をかけておいしいパンが作られるようになり、調理は女が行うことになりました。
衣類についても同様で、それまでの主な服の材料、ウール、毛皮は洗濯ができませんでしたが、産業化によって綿製品が入手できるようになります。綿は着心地もいいですし、あっという間に普及しましたが洗濯の頻度が格段に上がります。
20世紀・女性の社会進出
アメリカの古い観念では妻が外で働いていることは経済的困窮を表していましたが、20世紀に入ると主に各家庭で子供の生活や文化を向上させるのが親の責任となりました。多くの主婦は社会に出て働きそのステータスとして洗濯機などを家庭に導入して生活水準を向上させました。
第二次大戦後にはアメリカはより豊かになります。様々な家電が作られ、食品も冷凍食品、簡単に調理できる食品が入手できるようになります。
洗濯機や冷蔵庫は女性を家事から解放するわけではありませんが、女性一人でもすべての家事を行えるようになります。そして、家事テクノロジーによってフルタイムで働いても家庭内の生活を維持できるという事になりました。
家事の機械化がもたらしたもの
家事労働は機械化によって多少手間が省ける部分と、その機械の導入によって増える手間があります。例えば、冒頭に紹介した全自動掃除機。自宅で使う前には床部分に散らかったおもちゃや障害物をすべて片づけておかなければいけません。
それまでのずぼら主婦の掃除機では、床のおもちゃを掃除機のヘッドでよけたり、時にはヘッドで部屋の隅っこまで押しやることでなんとなく済ませていることもできましたが、片付けないとお掃除ロボットがひっくり返ったりという事態に陥ります。
つまり、便利家電のために人間の作業が増えているので家事時間は減らないのです。
アメリカの生活史がすべて日本にあてはまるわけではありませんが、家事労働が減らない理由が少しずつ見えてきます。
日本の家事労働の現状
歴史的に家事労働は家電の導入でも減りそうにないという事が分かってきましたが、日本での現状についてもう少し見ていきます。
「家事」とは?
家事とは、家庭生活を維持するために必要な行為で一般的には掃除、洗濯、炊事、などを指しますが、広義では家計のやりくりや、育児、介護など家庭内で行われる家庭生活を維持する行為全般を含みます。
また、家事を行っても賃金は発生しません。しかし家庭内で行わなければ生活はおろか、家族の構成員の生命にもかかわってくる重要な労働です。
家事をお金で評価すると138.5兆円!!
家事には賃金は発生しませんが、内閣府が発表した推計によると2011年度の家事をはじめとする「無償労働」の年額は138.5兆円(機会費用法で推計)になります。
この調査でいう無償労働とは炊事、掃除、洗濯、縫い物・編み物、家庭雑事、介護・看護、育児、買い物の他にボランティアも含まれています。
また機会費用法とは家計が無償労働を行うことによる逸失利益で評価する方法で、男女間の賃金格差などが反映され、無償労働の内容ではなく、誰が無償労働を行ったかで評価が変わってきます。
一人あたりの無償労働額の男女比
2011 年時点で一人当たりの無償労働貨幣評価額は、男性、51.7万円。女性192.8 万円です。女性の家事負担の高さがこの評価推計からもわかります。
男性だって頑張っている
このグラフは無償労働貨幣評価額に占める女性の割合です。2011年では男性も2割程度の家事労働を担っているという事になります。また、年々男女比が低くなっていることから男性だってある程度寄与していることが分かります。
無償労働貨幣評価額に占める女性の構成比推移(機会費用法抜粋)
出典:「家事活動等の評価について−2011 年データによる再推計−」内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部
家事は家庭文化を引き継ぐ側面も
大森和子著の『家事労働』(光生館1981年)によれば「家事には労働という面と同時にそれまで引き継いできたその家庭の文化を伝承するという文化的、教育的な側面も持っている」とされています。
出典:「高校生の生活と意識に関する調査(2004年2月)」財団法人日本児童教育振興財団内日本青少年研究所手伝いとは家事労働の継承の場でありますが、日本は中国、アメリカに比べて手伝いをしない、ほとんどしない、の割合が高いことが分かります。
日本では近年男女の家事労働比率のアンバランスからは父親が家事に従事していない実態が、子供も身の回りの家事母親に任せる傾向にあることが考えられます。
これは女性の家事負担を多くしているとともに、子供への家庭文化継承の機会も奪われてしまうという事になります。
「雇用機会均等法」は男女平等か?
男女雇用機会均等法は1985年、1995年には育休、介護休暇に関する法律が改正、1999年に男女共同参画社会基本法が成立し、男女は平等になったといわれます。
しかし、それを実感している女性は非常に少ない。なぜなら、収入格差は依然としてあり、家事労働の方でも男女の意識の差も完全に埋まってはいないからです。
男性の長時間労働も改善されていません。それに加えて労働者派遣法やサービス業の増加によって男性の非正規社員の割合も増えてきています。
男性が家庭にいる時間が少ないのですから、女性がそれを負担しなければいけない状況はある程度は仕方がないのかもしれませんが、ますます女性は「家事と仕事の両立」に追われています。
終わりに
「お母さんは忙しくなるばかり」で著者は週に一度はシーツを交換し、流しをピカピカに磨かなければいけないといった暗黙の規制が必要以上に家事を生じさせていることを指摘しています。
それが必要かどうかを意識することができれば、テクノロジーシステムのコントロールから解放され初めてお母さんの労働は減ると結論付けています。
家事労働を増やしているのは、個人の意識の中にもあることを自覚し、社会全体で替えていくことが大切なのです。
≪参考書籍≫
●ルース・シュウォーツ コーワン「お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史」法政大学出版局 、2010年
●大森和子「家事労働」光生館1981年
参考資料:「家事活動等の評価について−2011 年データによる再推計−」
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部 地域・特定勘定課(平成25年6月)